最近あった出来事を覚えにくくなったり、名前が出てこなくなったりするなど、記憶力に衰えを感じること、物忘れがひどくなったと思うことはありませんか?
「もの忘れ」とは、以前経験したことや記憶していた情報が思い出せなくなる現象を指します。
これは、誰にでも起こりうる自然な加齢現象の一つですが、その程度や頻度によっては注意が必要です。
目次
もの忘れの種類
もの忘れには、いくつかの種類があります。
- 加齢による生理的なもの忘れ: 年齢とともに脳の機能が少しずつ変化することで起こる、ごく一般的なもの忘れです。例えば、「人の名前が思い出せないけど、後でふと思い出す」「何をしようとしたか忘れるが、きっかけがあれば思い出す」といったケースがこれにあたります。経験したこと自体を忘れるのではなく、思い出すのに時間がかかったり、きっかけが必要だったりするのが特徴です。
- 病的なもの忘れ(認知症など): 脳の病気(アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症など)が原因で起こるもの忘れです。こちらは、経験したこと自体を完全に忘れてしまったり、日常生活に支障が出るレベルで頻繁に起こったりするのが特徴です。例えば、「食事をしたこと自体を忘れる」「家族の顔が分からなくなる」「日時や場所の感覚がなくなる」といった症状が見られます。
加齢によるもの忘れと病的なもの忘れの違い
特徴 | 加齢によるもの忘れ(生理的) | 病的なもの忘れ(認知症など) |
忘れる内容 | 体験の一部を忘れる(経験自体は覚えている) | 体験全体を忘れる |
自覚 | もの忘れがあることに自覚がある | もの忘れの自覚が乏しい、または全くない |
日常生活への影響 | ほとんど影響がない | 日常生活に支障が出る |
進行 | 緩やかで、大きく進行しないことが多い | 徐々に進行し、症状が悪化していく |
例 | 人の名前が思い出せないが、顔を見ればわかる | 人の名前だけでなく、その人が誰であるか認識できない |
| 何かを取りに行ったが、何をしようとしたか忘れる | 食べたこと自体を忘れて、何度も「まだご飯?」と聞く |
もの忘れが気になる場合の対応
物忘れを防ぐための方法は、大きく分けて「日常生活で意識すること」と「脳を活性化させるための工夫」があります。「年のせい」とあきらめないで日常生活の中で予防のための工夫をしましょう。
ここでは、物忘れを防ぐためにできる具体的な方法をいくつかご紹介します。できることから少しずつ生活に取り入れて、脳の健康を維持していきましょう。
1. 脳の健康を保つための生活習慣
脳の健康は、認知機能全般に大きな影響を与えます。
- バランスの取れた食事:
- 青魚(DHA・EPA): マグロ、イワシ、サバなどの青魚に多く含まれるDHAやEPAは、脳の神経細胞を活性化し、記憶力や学習能力の向上に役立つとされています。
- 緑黄色野菜・果物: 抗酸化作用のあるビタミンやポリフェノールが豊富で、脳の老化を防ぎます。
- 大豆製品・ナッツ: レシチンやビタミンEなど、脳の健康に良いとされる栄養素が含まれます。
- 良質な油: オリーブオイルなど、不飽和脂肪酸を積極的に摂りましょう。
- 過度な糖分や飽和脂肪酸の摂取は控える: 揚げ物や甘いものの摂りすぎは脳の炎症を引き起こす可能性があります。
- 適度な運動:
- 有酸素運動: ウォーキング、ジョギング、水泳などは、脳の血流を改善し、新しい神経細胞の生成を促す効果があります。週に2〜3回、30分程度の運動を目指しましょう。
- 筋力トレーニング: 下半身の大きな筋肉を鍛えるスクワットなどは、全身の血流を良くし、脳の活性化にも繋がります。
- 「デュアルタスク(二重課題)」を取り入れる: 脳を使いながら運動することで、より効果的です(例:計算しながらウォーキング、しりとりをしながら散歩など)。
- 質の良い睡眠:
- 睡眠中に脳は日中の情報を整理し、記憶として定着させます。規則正しい時間に寝起きし、十分な睡眠時間を確保しましょう(成人で6〜8時間程度が目安)。
- 寝る前のカフェイン摂取やスマートフォンの使用は控えましょう。
- ストレス管理:
- 慢性的なストレスは脳に悪影響を与え、記憶力や集中力の低下に繋がります。
- 趣味を楽しむ、リラックスする時間を作る、瞑想、軽い運動などでストレスを解消しましょう。
- 社会的な交流:
- 人との会話や交流は、脳に良い刺激を与え、認知機能の維持に役立ちます。積極的に外出したり、友人や家族と交流する機会を作りましょう。
- 生活習慣病の管理:
- 高血圧、糖尿病、脂質異常症などは、脳血管障害のリスクを高め、認知機能低下の原因となることがあります。これらの持病がある場合は、医師の指示に従い適切に治療・管理しましょう。
- 禁煙・節酒:
2. 脳を活性化させるための工夫(脳トレ・記憶術)
- 知的な活動を習慣化する:
- 読書や学習: 新しい知識を得ることは脳を活性化させます。
- パズルやゲーム: クロスワードパズル、数独、将棋、囲碁など、頭を使うゲームは脳の良いトレーニングになります。
- 新しいことに挑戦する: 語学学習、楽器演奏、絵を描くなど、これまでやったことのないことに挑戦すると、脳の新しい回路が刺激されます。
- 記憶術の活用:
- 声に出す・書き出す(アウトプット): 覚えたことを声に出して読んだり、紙に書き出したりすることで、より記憶に定着しやすくなります。
- 関連付けて覚える: 新しい情報と既に知っている情報を関連付けたり、ストーリーにして覚えることで、記憶が定着しやすくなります。
- 繰り返し学習する(反復): 一度に大量に覚えようとするのではなく、短時間で繰り返し情報に触れる方が効率的です。特に、覚えた直後と、数日後に復習すると効果的です。
- 五感を活用する: 見る、聞く、触る、嗅ぐ、味わうといった五感を意識して情報を処理すると、記憶に残りやすくなります。
- イメージ化する: 覚えたい情報を具体的なイメージに変換して記憶すると、忘れにくくなります。
- メモやリマインダーの活用:
- 物忘れが気になる場合、積極的にメモを取る、ToDoリストを作る、スマートフォンのリマインダー機能やアラームを活用するなど、外部記憶に頼ることも有効な対策です。
- 重要なものを置く場所を決める、日常のルーティンを決めるなども役立ちます。
専門家への相談
これらの予防策は大切ですが、もし「最近、物忘れがひどくなった」「生活に支障が出始めている」など、気になる症状がある場合は、「年のせい」と自己判断せずに、必ず専門の医療機関(もの忘れ外来、認知症専門外来、神経内科など)を受診してください。
早期に診断を受けることで、適切な治療やサポートが受けられ、症状の進行を遅らせたり、より良い生活を送るための道が開けます。
もし、ご自身やご家族のもの忘れが気になる場合は、以下の点に注意し、必要に応じて専門機関への相談を検討してください。
- もの忘れの頻度や程度が以前よりも増している
- 日常生活に支障が出始めている(例:買い物や家事ができない、約束を忘れる、道に迷うなど)
- もの忘れがあることに対する自覚がない、または非常に乏しい
- 性格の変化や意欲の低下が見られる